「健身」は人ごとではない 変革もたらすビジネス(5)

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「健身」は人ごとではない 変革もたらすビジネス(5)

2017年09月22日

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 前回「養生」について書きました。健康を自らコントロールし、快適な生活を送る生き方や知恵のことです。今回はその養生と密接な関係にある「健身」について触れます。健身とは「フィットネス」を意味します。養生と健身は双子のようなもの。健身がうまくいっているなら養生が実践されているわけですし、養生が機能していれば健身がより効果的になるわけです。

  中国の公園や広場を訪れると人々がダンスしたり太極拳をしたりしています。先日中国を訪れた際、立ち寄った広場では大音響で音楽が流れていて、そのリズムに合わせてダンスしている集団がいました。思わず飛び込んで一緒に踊りたくなりました。こうした集団は、趣味のサークルもありますし、自然発生的にできることもあります。たいていどの活動もオープンです。みなさんが旅行者として飛び込みで参加してもだれも気にせず、むしろ歓迎するでしょう。

  これは健身のよい例です。面白いことに、小さな広場にも、ジムでよく見かけるマシンが設置されていることが多く、お金をかけずに体を鍛えることができます。

  健身産業はジム、ヨガ、そして癒やしの効果が期待されるマッサージやアロマテラピーといったサービスを含みます。養生産業と一緒で、今後もっと広がっていくでしょう。 


■豊かさの中の健康ブーム


 私の見る限り、今中国では大きな健康ブームが起きています。それも、激動の中の健康ブームです。歴史の観点から説明しましょう。鄧小平が始めた改革開放政策によって、1980年代から中国は徐々に経済力を付けてきました。貧しかったころは食べることに精いっぱいだった国民が、自らの努力と才覚で豊かになれるとわかったのです。外資企業は、消費大国としての中国の潜在性にいち早く目を付けどんどん進出しました。当然、中国人の食生活は激変していきます。お米からパンへ、伝統的な中華料理から米マクドナルドに代表されるファストフードへ。変化は瞬く間に受け入れられました。

  日本に長く住み、つぶさに日本の様子を見てきた私が思うのは、この激動ぶりはまさに日本の追体験ではないかということ。そもそも来日した理由の一つは、日本の急速な経済発展に興味を持ったからでした。戦後に目覚ましく発展し、さらにバブルの時代に日本人が経験したことを、中国人は現在体験中なのです。

  人々は豊かになって、太ってしまったり、生活習慣病にかかりやすくなってしまったりしました。自分の体に気を使う余裕ができたので、病気にかからないようなライフスタイルを探すことに熱心になる。地産地消や有機野菜などを求め食の安全に神経質になり、ジム通いする人が増えることになりました。

  変化から不安が生まれ、将来を確実なものにしようとするための競争は激しくなる一方です。ストレスからか、成功を収めながら若くして亡くなる著名人の話をよく聞きます。中国人の大きな死因の一つに過労から来る心筋梗塞が多いという調査を見たことがあります。がんにかかる人も多い。テレビドラマなどで人気があった徐?さんという20代半ばの人気女優が、ちょうど1年ほど前にがんで亡くなったのは大きな話題になりました。
 
  中国は、いまだに新旧の社会システムが入り交じり、急速な経済発展に伴って起きた問題の解決は簡単ではありません。産業は時代に合わせ、環境負荷の少ないやり方に大幅にシフトしてきました。ですが旧来のシステムも稼働していることで、大気汚染などの環境問題は、まだ人々の健康を脅かしている状態です。医療にしても、住んでいる場所によっては保険が少なく高額な医療費になるために、健康でなければならないという意識が高まっています。「健康でありたい」意識は、切実なのです。 


■自らの体と健康を守る

 
 違う角度からもこの意識を説明できます。中国では一人っ子政策時代に生まれた子どもたち(小皇帝と呼ばれる)が高齢になる父母や祖父母の面倒をみないといけない。中国では介護システムは日本ほど発達しておらず、多くの人たちは介護の問題に直面しています。高齢福祉への高まる需要に、国も急ピッチで態勢を整備しつつあります。例えば一部の老人ホームは、国からの優遇策があります。場所によって福祉施策は全然違うので一概に言えませんが、今後充実していくことは確実です。

  ただし国にしても予算は青天井にできません。老齢人口が増えていけば、保障も限られたものにならざるをえないでしょう。そうしたなかで、国は国民の健康促進を目的とした「健康中国2030年計画」を打ち出しているのです。

  8月4日付の日経新聞で、日本が促進する国際医療交流(医療ツーリズム)を目的に訪日する外国人が中国を中心に急増していると読みました。記事には「医療滞在ビザの発給件数は2016年に約1300件と前年より4割近く増えた」とあります。質の高い医療サービスを受けようと海外に渡航してまで治したい人がいる。なおかつそれを可能にする経済的余裕があるということです。

  健康関連は、日本でも、もっと発展の可能性がある業種の一つです。豊かだが少子高齢になった時代に、個人が自らの体と健康を守らなければならないのは明白です。さまざまな良質な健身サービスが出てくることを期待しています。


読者からのコメント


60歳代男性
同感です。健康関連産業はこれからますます発展するでしょう。12年前に上海や杭州 をツアーで訪ねたときも、朝から公園で太極拳に興じる人々を見て感心したことがありました。やはり中国の人達も健康に関心が深いんですね

60歳代男性
世界第二位の経済大国になった中国の課題はまさに「健康中国2030年計画」ですね! まず、大気汚染問題を最優先させるべきとかんがえます。