セルフレジは体験でなく日常になる 変革もたらすビジネス(2)

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セルフレジは体験でなく日常になる 変革もたらすビジネス(2)

2017年07月28日

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 近所にある衣料品店ジーユーでの出来事です。普段着を数点、買い物かごに入れて、さあ支払おうとしたときです。今までのレジカウンターがなくなり、個別の決済スタンドみたいなマシンに置き換わっていたのです。

  服を入れたかごごと、スタンド下部にあるボックスに入れます。そうすると瞬時に、かごの中身の品名、件数、価格など詳細がコンピューター画面に表示されるのです。商品に付いた電子タグを読み取って実現しているそうです。私は単に内容と総額を確認し、クレジットカードを上から下へスワイプするだけでした。いわゆる「セルフレジ」。 買った後、自分で袋詰めします。やってみてわかりましたが、店員さんが服をたたんでくれるのはとてもありがたいですね。でもそう思ったのは一瞬で、考えてみれば自宅へ帰ればすぐハンガーにかけるし、プレゼントでもない限り、きれいにたたまれている必要はあまりありません。

  もう一つ、最近中国で話題だったのは、今月半ばに浙江省杭州市にオープンした、アリババ傘下の淘宝(タオバオ)の無人スーパーです。体験したいと人々が押し寄せてすごい行列になっている写真を見ました。入店するときに、まるでJRや地下鉄の改札のようなマシンを通るのですが、そこでWeChat(微信、ウィーチャット)などのチャットアプリを入れたスマートフォンをかざすだけ。アプリが表示するQRコードで個人を識別して、後に決済するまでの流れをスムーズにするのです。

  日本では主に、決済手段に現金かクレジットカードを使っていますね。この点では中国の方が進んでいて、もっと手軽に、アプリを決済に使えます。利用者はアプリに自分のお金を移動させておくだけです(銀行口座とひも付いています)。帰り際、出口に設置された無人の決済ゾーンに行き、品物をすべてまとめて買います。お財布が出る幕はありません。

  アリババのジャック・マー氏をはじめ、ビッグデータ分野で成功した起業家たちが、こうした無人の店舗経営に乗り出しています。十万単位の大量オープンを目指し、競争が激化しています。技術革新とスマホ一つで完結する利便性のおかげで、人々がどんどんこういうサービスを使い出したわけです。新華社の記事によると、この無人スーパーの仕組みで、4人が1日あたり40店舗を管理できるようになるそうです。 


■止まらないセルフ化


  誰もいない、モノだけあるお店で買い物し、瞬時に終わる決済サービスで待ち時間知らず。これが中国でブームになるでしょう。 スウェーデンやデンマークの空港では数年前から無人チェックインです。チケットはもちろん、荷物のチェックインまで自分で重さを量れるマシンがあり、すべて自分で搭乗手続きできます。日本のマクドナルドはまだ試験運用のようですが、海外の一部マクドナルドではすでに、無人キオスクの画面でメニューを選びオーダーできます。スウェーデンのマクドナルドで使ったとき、実際に列も待ち時間も少なかった。対面よりも効率的だと感じました。

  遅かれ早かれ、日本にもこの無人の波、あるいはセルフ化の波が押し寄せるはずです。個人のさまざまな情報を集約し活用できるビッグデータ企業がどんどん伸長します。

  ちょっとシミュレーションしましょう。あなたは、お店のオーナーです。販売スタッフを数人雇っていますが、売り上げに比べ高い人件費に頭を悩ませています。そこにセルフレジのアイデアが出ました。セルフレジを使えば、初期投資は必要ですがその後の人件費は一切かかりません。棚を補充するだけですから、スタッフはせいぜい1人いれば事足ります。

  あなたがなんとか人件費を削減しようとセルフレジ導入を検討するのは自然です。人件費が節約できれば、販売価格を安くできます。ビッグデータで、重点的に販売すべきものや場所がわかれば、そちらに経営資源を割くことができます。また、無人環境やセルフレジで当たり前に買えるお客にとって、便利で速い(待たない)、安いお店となれば、はやらないわけはないですよね。ここに競争力ができます。

  そうみると、資金力や出店規模やスピードなどが今、まさに問われているのです。この点で先進技術を使い、ビッグデータのビジネスに乗っている起業家は有利で、それゆえ大成功するでしょう。

  セルフレジや無人スーパーは、数回使えば「めずらしい体験」からあっという間に「日常」に変わります。いったん日常になれば、私たちはもう後戻りできません。

  アリババの無人スーパーなど、中国のフィンテック事情を知るたびに、とても刺激を受けます。北欧に行っても、いつも何か発見があります。新しい技術を使ってみて、時代のうねりを感じるのが好きなのです。夏休み、海外に行く機会がある方は、日本で見慣れない新しい技術やシステムに触れるチャンスです。そういう観点で体験して見聞を広めるのも、楽しみの一つではないでしょうか。


読者からのコメント


 昌美さん、50歳代女性
私はまだセルフレジのお店に遭遇したことがないもので、そのシステムに驚きました。確かに人件費は高いですが、高齢者や障がい者、機械に弱い人も利用できるの? と心配になってしまいます。私も早くセルフレジ店に遭遇することを楽しみにしております(笑) 世の中全体が機械化し、人間味のない社会になってしまう懸念はありますが……

如水さん、50歳代男性
日本はIT化が進んでいるような気になりますが、実際は行政や企業間の社会構造が邪魔して社会実現レベルでは海外に後れをとっていると思います。記事を読んで改めて感じました。

堺谷光孝さん、60歳代男性
無人スーパーや無人レジは衝撃的ですね。セルフ方式のガソリンスタンドも、最初は戸惑いましたが、今では当たり前になっています。AIやビッグデータの活用で、とんでもない販売方法が可能になっているんですね。ただ、商品を間違いなく確認できるのか、心配するときりがないこともあります。ある意味で中国においては、AIの活用が、日本よりはるかに大胆に進んでいる、といえるのでしょう。馬さんが指摘されるように、日本の近未来を先取りしているのかもしれないですね。ありがとうございます。

けいこさん、40歳代女性
セルフレジ。世界はどんどん変化をしていっているのですね。地方都市の岡山市でも、少しずつですがセルフレジに移行しています。世界の変化のスピードには驚きです。固定観念にとらわれない発想の大切さを学ばせていただきます。馬さん、いつ も、貴重な学びを、ありがとうございます。

20歳代男性

面白かったです。次も期待しております。