中国は貧しい? それは違います

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中国は貧しい? それは違います

2015年12月18日

 先日故郷へ帰った折、幼なじみの仲の良い友人と買い物に行きました。通りかかったお店にディスプレーされていた洋服に目が留まり、手に取ろうと近づいて値札を見てびっくり。日本円で2~3万円くらいだろうと思ったら、なんと10万円くらいしたのです。  
 
 10万円の服だったら、日本であればもっとセンスのいい、高級なお店に置かれていておかしくないのに、そのお店はとりたてて高級でもなく平凡なお店なのです。  

 驚いて友人に「これ、高すぎない?」と言ったところ「その感覚は中国人じゃないわね」と笑われてしまいました。そして「私が着ている服はいくらだと思う?」と聞かれたので、そう安い値段は言えないなと思い、「5~6万円くらい?」と答えたところ「15万円よ」。二度びっくりです。彼女は普通の女性です。普通の人が、気の置けない友人と会うという日常のシーンに、15万円の洋服を着てくるのです。  

 それにしても中国は物価が高くなりました。人々が手にする給料と見合わないほど高いものも見受けられますが、それでも売れるのです。「高給取り」が増えている証拠です。


■内需拡大にまい進する

 
中国は投資輸出型の経済から、2008年に内需拡大路線に変換しました。現政権も消費を中心とする内需拡大を重視する方針を維持しています。国内総生産(GDP)が、15年7~9月期に前年同期比6.9%増となり、09年1~3月期以来、約6年ぶりに7%を下回ったと大きく報道されました。少し下がると、すわ景気にブレーキかという印象を持ちますが、今までの成長の伸びが大きく、長く続いた後だからこそ、少しの落ち込みが非常に大きく感じられるのではないでしょうか。  

 鄧小平が経済開放を進めた1980年代から、中国は本当に激しく変化しています。産業構造も、製造業から第3次産業へ大きく傾き、輸出大国から輸入大国になりました。物価が年々上がり、ちょくちょく中国へ行く私でも目を見張るばかりです。それでも、高い値段で買えてしまう層が厚みをもって出現し、台頭してきているのです。  

 中国市場に関する大きな話題はまだあります。投資の象徴だった不動産や株。3年前の不動産価格の急落は記憶に新しいところです。誰も買わず、値段があってないような水準まで下がりました。ところが上海や北京といった一線都市(大きい都市)の住宅価格は今年に上がり始めました。  

 今年の夏場には株価暴落がありました。日本の新聞を読み英字紙も読み、事態は深刻だ、大変なことが起こったと中国紙も読みました。中国紙ではあまり大きい扱いではなかったのでどういうことかと中国に住む家族や友人に聞きました。  

 中国人のほとんどは株式投資を行っています。暴落について彼らに聞くと、調整局面だとけろっとしている。もちろん損をした人もいるでしょうが、逆に今、株価が安くなっているから好機だ、だから買いに行ったという知人もいました。政府の市場コントロールの力があるので、暴落といっても経済が崩壊することはないでしょう。人々の間にも、政府はうまくやってくれるという安心感があるようです。一般の人の冷静な受け止め方を目の当たりにした思いでした。


■変わる隣人を見据えて

 
物価が高くても購買力を持ち、経済を回している普通の中国人。そんな現実を、肌で感じています。貧富の差が大きくなっていることは事実ですが、10年、20年前の「貧しい中国人」というかつてのイメージはもう当てはまりません。  

 先月、地方のイベントに参加した際、知人の日本人男性に「馬社長、貧しい中国人を助けてください。彼らのために頑張ってください」と声をかけられました。「違うんです、今はもう貧しくないですよ」と言ったのですが、以前、来日した中国人を支援していた経験があったそうで、彼には当時のイメージが強いようでした。  

 逆に、こんなこともあります。中国でマッサージサービスを展開している事業家と話をする機会がありました。まったく普通の男性です。お店を経営しているというので、数店舗だろうという前提で話していたら、なんと500店舗ほどの規模のビジネスといいます。驚きました。以前なら成功している経営者は、いかにも、という派手な服装や形の変わった靴を身に着けていたのですぐそうと分かったものですが、そんな感じではないのです。  

 今、中国は自らのイメージの転換点にあるのだと思います。多くの日本人はまだ中国でもインドでも、自分たち以外のアジアを貧しいと思っているかもしれませんが、実際は違います。中国には新興中間層だけでも、日本の全人口以上いるのです。人々が豊かになり、ものすごい勢いで変わっているという現実をきちんと認識して、固定されたイメージを捨てて付き合うことが重要だと考えます。  

 「イメージの転換」はとても大切な考え方だと思うので、次回もこの話題を掘り下げていきます。


読者からのコメント


長畑貞之さん、60歳代男性
中国の実情について日本では案外デフォルメされた情報が氾濫しています。どれが事実かなかなか判断できない部分があります。生活感に基づいた馬さんの経営者ブログ、今回初めて見ました。今後継続して楽しみに拝見します。


一椀天津面さん、60歳代男性
暫く中国を離れていた馬社長が中国の物価感覚にズレを感じたというのは非常によく理解できる話です。小生、中国で10年余の駐在を経験しましたが、2003年当時のスーパーでは「元」の100分の一の「分」までおつりをくれたものです。それが今では「分」の単位は事実上消滅しています。ただ、物価と同時に購買力も上がっている一方で、全ての勤労者が楽に消費を楽しんでいるとも限らないと思います。特に元々持ち家ではない人たちのローン負担は相当なものと感じました。親の代からのアパートを引き継げる層とそうでない層ではかなり負担の違いが有りそうです。外で働く以上同じような服装をする必要に駆られることからも、これから住宅取得を考える層の家計は楽ではなく、住宅取得に対する施策が必要と感じたものです。


小倉摯門さん、60歳代男性
遠く大きな目で眺めれば、日本が豊かか?の問いに答えるのが容易でないのと同じく、あの巨大な中国を一括りにして経済的に貧しいと言うのも違うと言うのも違うでしょうね。現場感覚は一部分の情報から全体を推測する。他方の統計は定性や属性を無視して定量的な数値を十束一絡げにするので誤解を招き易い。単純な算術が弾き出す平均値よりも中央値や偏差値の方がより現実に近い感覚を得られるが、それでも「現実からの乖離が大きい小さい」と云う程度の問題に過ぎないでしょう。2014年一人当りGDP(IMF、千ドル)が日本36、中国7.5の平均値はあっても両国のトップのリッチマンは間違いなく逆転している。その分、中国の貧困層は経済的には一層過酷な状況だと言える。日本と比べて人口は11倍、多様な文化や伝統を生む地方を集積した領土は25倍なので、中国人集団の形状は巨大であり、所得分布は縦に長く広い範囲に散らばっているに違いない。


嘆きの60歳さん、60歳代男性
国、個人関係なく固定イメージ、観念を人間は持つものです。日本と言えば「さくら、きもの、寿司、サムライ」スペインは「フラメンコ、闘牛」と言ったものです。個人でも同じように、こわい、怒りっぽい。そんなイメージが発現した時に、相手に刷り込まれるのです。これらを払拭するには、交流する上でコミュニケーションを密にする事です。他者性の認識、現実の認識をすることです。日本人はこれら二つの認識を余り強く意識しない国民です。それは地理的条件で、大陸から離れた小島である、一民族、一言語であると言う歴史的条件から来ているものです。大陸は、文化が重層しており、民族も混在している。難しい問題です。 しかし、皆、人間であることは変わりありません。固定観念を打破するには、コミュケーションが鍵を握っているのは、確かです。