2017年09月08日
久しぶりに中国に行くと、以前と違うと感じることが多くあります。その一つは「お年寄りが増えたなあ」というもの。なにしろ2025年までに老齢人口が3億人に届くと予測されているそうですから、当然かもしれません。
環境の変化や長寿の時代のなかで、中国人の平均寿命は、世界銀行によるとほぼ76歳(日本は86歳)まで伸びました。日本のような長寿国と比べればまだ開きがありますが、今後、ギャップは小さくなっていくでしょう。
■国が推進する国民の健康
中国政府は昨年秋、「健康中国2030年計画」を公表。国民の健康促進を国家戦略の柱の一つとして正式に定めました。スポーツやヘルス、保健・医療分野を拡充していくことで平均寿命の上昇などを目指します。具体的には30年までに、平均寿命をあと3年伸ばし、79歳くらいにします。裾野は広く、医療機械開発の拠点になるとか、漢方の有効性を発揮するなど施策が多く盛り込まれています。
これまでも中国の保健・健康食品(ここでは触れませんがそれぞれ定義があります)やその他関連サービスは拡大を続けてきました。この市場規模は16年には前年比で20%増の6600億元(約11兆円)という調査もあります。私が中国ですぐ考えつく保健食品はロイヤルゼリーです。
■養生産業は広い
中国には伝統的に「養生」の考えがあります。心身の健康をコントロールし、快適な生活を送る生き方や知恵のことです。中国人は「自分の体は自分で守る」意識がとても強いのです。そうした文化的な背景もそうですが、病院にかかるお金が高くなる、保険のカバーがないなど社会保障に関係する背景もあります。どの医療保険に加入しているかで、受けられる医療内容が大きく変わります。これは日本でも同じです。
養生に含まれる分野はさまざまで、多岐にわたります。食でいえば漢方を使った薬膳料理やその材料、お茶やお酒。森林や山、温泉などへ行くツーリズム。美容サービスはもちろん、知的興味をもたらす博物館・美術館などに対する活動、精神鍛錬のための活動。これは書道などを含みます。
近年、特に食に関する意識が高まりました。日本の健康食品をたくさん買っていく中国人旅行客のことはご存じでしょう。地元で取れる野菜などを使った、いわゆる「地産地消」型の食事も中国で人気を集めており、有機野菜への需要が強くなっています。
中国にいる友人が有機栽培のビジネスを数年前に始めました。ホウレン草などの葉物、大根などの根菜を作っています。売価は通常のものより1.5倍くらい高いそうですが、国内からも日本からも引き合いが結構あるといいます。最近、農地にできる土地を新たに借り、順調に規模を拡大しているようです。
■AI×健康に潜在性
中国のアリババ集団創業者で会長の馬雲氏は、今後の重点投資分野を2つ挙げています。それが「健康」と「快楽」。人々の健康を促進し、癒やしを与えられるようなサービスで人々を幸せにする狙いです。人工知能(AI)を使った薬局などの構想があるとのこと。AI技術は中国の強みですから、健康促進という国と個人が共通して持つ目的と結びつけば、ビジネスとして潜在性が大きいのは間違いありません。
「養生」分野が中国の巨大な産業に育つのは確実です。モノに関して豊かになった人々が、今度は自らの健康状態に関心を向けるのは自然な成り行きです。豊かになった中国から生まれるニーズは日本にも共通しており、養生産業は日本にも変革をもたらすチャンスをつくるはずです。
読者からのコメント
50歳代女性
中国は北京五輪以降、高度成長期を迎えたと思います。食生活もチーズやワインを食し、生活様式も欧米化しました。医学も東洋式から西洋式に変わりつつあるので、平均寿命も伸びたのではないでしょうか? 平均寿命が伸びるのは大変悦ばしいことですが、「一人っ子政策」の結果、高齢者を支える家族、又は介護者がいなくなることが懸念されます。現在の中国は、老人ホーム建設のラッシュと聞いております。
60歳代男性
養生が大切という考え方は、中国に昔から定着している伝統的なものですね。薬膳料理や薬草、漢方といった人間の自然体を重んじる健康法は、中国の歴史に根ざしているのでしょう。AIと健康産業が合体したら、これから期待できる成長産業になりそうですね。
60歳代男性
中国は昔から仙人が住んでいた、まさに養生訓のレジェンドなんです。高齢化社会はどの国にも共通のテーマであり 「健康」に関する市場規模は益々上昇する事は間違いありません。環境・食・医療・娯楽・精神 等々で。