恩返しより「恩送り」の心

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恩返しより「恩送り」の心

2017年06月16日

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 前回、新生アジアという一般社団法人を設立したとお話しました。今回はその経緯、根底にある考え方についてお伝えしたいと思います。

  講演などに招かれると、このブログの読者を含めてさまざまな方たちにお会いします。そのうち、ご縁を得て継続してお会いするグループができました。

  「馬さん、あなたは女性のビジネスリーダーとして活躍している。日本のことに詳しい中国出身の経営者として、客観的に日本を見られる。伝えたいメッセージもお持ちです。何か次のことを始めませんか」。ありがたいことに、何人もの人からそう言われました。

  とはいえ、これ以上、私自身が組織を立ち上げるのは難しいと思っていました。会社経営、弁護士の仕事はもちろん、海外出張もあれば母親業もあります。十分忙しいから、そうしたお話は断ってきました。 


■アジアがキーワード 


  風向きが変わったのは2016年9月から。ある講演の後、見知らぬ女性が私に近寄り、突然、怒鳴りつけるように言いました。「あなたはもっと能力があって、まだまだ発揮できるのに、自分でそれを認めていない。本をもっと書いて、講演やサイン会をしたらどうです! あなたは国同士、人同士をつなげる人なのだから」

  驚いて返答しました。「今も日中の懸け橋になるお仕事をしています」すると女性は言いました。「日中だけじゃない。今はアジアの時代でしょう!」アジアというキーワードが響きました。それまでも仕事や、自主的な活動を通して「アジアに向けて何かする」というアイデアを何度も耳にしていたのです。

  懇意にしているある方からも、新しい活動を常々促されてきました。「馬さんは新規活動にまたとないリーダー」と諭されました。私の資質や経歴が適しているというのです。ここでもキーワードはアジア。アジアの時代に、私こそが多くの人を率いるべきだと、尊敬するこの知人から言われたのです。

  最初は「なぜ私が。忙しいのに」と足踏みしていましたが、これが長年、私の探し求めてきた何かだと徐々に思うようになりました。今年1月、腹をくくりました。そして設立に向けて走り出しました。 


■社長の言葉で熱く


  やると決めたからには、組織の枠組みを整える仕事があります。まず命名が大事です。アジアの文化・経済を知り貢献すべきだとの思いから、仲間内で「アジア文化経済」と便宜的に呼んでいました。

  後で思えば、文化経済とはいかにも重々しく、私などその旗振り役にはとても力不足だと感じていました。打ち合わせで頭に「新生」を付けるアイデアが出て、ならば「新生アジア文化経済」となったときには、もはや名前を覚えられないメンバーも出ました。えいっとばかり後半部分をなくして「新生アジア」ではどうだろうと思いついたとたん、肩の荷がふっと下り、これだったらいくらでもできそう!とがぜんやる気がでました(笑)。名前がいかに重要か、再認識しました。

  次に、基盤となる運営資金。これは会員個人・企業からの賛助金、そして私個人の資金からまかない、数百万円ほど集めました。

  賛同者をどうやって集めていくかが大きな心配事でした。でも予想よりはるかにみなさん興味を持ってくださいます。5月の半ば、新生アジアの通知を知り合いにお送りしたところ、ありがたいことに社長や営業マンの方たちがさっそく入会してくれました。

  100人くらいの規模の不動産会社を経営している、ある社長とお会いしました。入会希望とのことで、社長はこうおっしゃいました。「経営者としてさまざまな苦労があったが、たくさんの人に支えてもらった。でもその恩をお返しする余裕がなかった。今、何かやろうとしても一人ではできない。みんなの力を生かして人を助けたい。新生アジアは、まさに私が探し求めていたものです」。受け皿を準備してくれたこと、馬さんが音頭を取って進めてくれることはありがたいと、涙ぐんでおられました。 私は感動しました。この社長のような存在が、私を支えてくださっているのです。いざ活動が回り出すと、楽しくなってきました。もちろん本業の営業時間内は、東京エレベーター社長としての仕事に集中。終業後や週末に人に会いに行くなど新生アジアの活動をしています。 


■満たし、感謝し、恩を送る

 
 この組織を通して、私は「考え方」と「アイデア」を醸成したい。変化に合わせる柔軟性を持った、前向きに物事を捉える姿勢と考え方。そうすることで生まれる独創的なアイデア。この2つをしっかりと共有していきたいです。

  新生アジアには3つの柱があります。アジアを一つと考えて貢献する、自らの潜在能力に気づきそれを生かす、女性の生き方支援を中心にセミナーを開催する――です。さらにこれらを支えるボランティア会員には、守るべき3つのコンセプトがあります。

  ボランティアのスタート地点は「満たす」こと。まず、自らの心を満たします。これなしでは人様のために働けません。次に「感謝」。自分が満たされて初めて人に感謝できる。

  さらにその次には、感謝を表すため、恩返しならぬ「恩送り」をする。恩を受けた方に感謝をお返しするのが恩返し。素晴らしい行為ですが、私はあえて、恩を後生に送るという意味で恩送りと呼びたい。

  ボランティア活動そのものは尊いものです。井戸掘りなら、井戸のあるその近所に住む数十人、数百人が直接、恩恵を受けられます。私はそれより大きなくくりで、前向きで柔軟な考え方を含めて伝えていけばいいんじゃないかと思います。そうすれば、1つの井戸より影響を与える範囲が、もっと広くなるんじゃないかな。どんどんプロジェクトを広げていくなかで、今までの夢や、やりたいことをやってみようじゃないかって、一人でもプラスに考える人が新生アジアに生まれてくれれば、最高です。

  私たちが実際に活動できる時間は限られています。いずれ老い、病気になり、死が訪れます。物や肉体が滅びても残るのは何か。それは「考え方」しかありません。すべては考え方次第です。この考え方こそ、外国人女性でも会社経営を曲がりなりにも軌道に乗せ、日本社会で生き抜いてこられた私の恩送りと呼べると思います。


読者からのコメント


昌美さん、50歳代女性

毎回楽しみにしております。特に先進途上国はまず、生活の土台をしっかり固めなければならないと思います。衣食住はもちろん、医療や教育です。教育は永遠の財産、人材は国の財産。元々、お米を食べているアジア人には底力があります。アメリカの研究でも「アジア人は世界レベルでみてとても頭がいい」との結果も出ています。日本は、昔から東南アジアに対して無償でお金を貸し出していますが、まだ生活も教育も貧困なのはなぜでしょう? 「新生アジア」に賛同・期待しております。