女性は甘えず、欲を持て 日本で働く女性外国人トップ

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女性は甘えず、欲を持て 日本で働く女性外国人トップ

2017年07月25日

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 日本の女性活躍を進めるにはどんな点を改善すべきか。外国人で国内企業トップを務める2人に尋ねると、女性自身にもっと積極性や力強さを求める辛口のアドバイスが返ってきた。

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■「働く環境」自ら整えよ 東京エレベーター社長の馬英華さん 

 
 「もう女性を雇うのはやめたい」。最近、中小企業経営者の男性から相談を受けた。女性数人を採用したが、すぐに妊娠して産休・育休を取得。復帰後の働きぶりをみても限定的なのだという。中小企業にとってそうした人を雇うのが苦しいのは確かだ。

  男性には「仕事ができる素晴らしい女性は必ずいる。諦めずにいい人を探して」と答えたが、私自身も一時期、女性を雇うのをやめたことがある。噂話に興じたり派閥をつくったり。繁忙期でも「夫が残業は駄目だと言うから」と帰宅。退職もあっさり。女性はもうたくさんと思った。

  今は優秀な女性社員らに支えてもらっているが、一般に男性よりも仕事に対して甘い考えを持つ女性が多いのは事実と感じる。「いざとなったら辞めてもいい」「補助的な収入で十分」という意識がある女性は、少なくないのではないか。

  家事や育児の負担が女性に偏っており、大変なのはよく分かる。私も夫が外国に滞在する中、長男を育てるのには苦労した。特に中小企業では最初から十分な支援体制が整っているとは限らない。

  だが最初から会社に完璧を求めても無理がある。困ったときはコミュニケーションを取り、どんな支援が必要か、自分が会社に貢献できることは何かを伝え、働きやすい環境をつくる努力をすべきだ。

  男性の協力も欠かせない。中国には伝統的な男尊女卑の考え方があるが、実は夫が自分の数倍稼ぐ妻を支えるパターンが多くみられる。仕事のできる人がどんどん昇進する徹底した能力主義のため、こういうことが起きる。一方、日本は横並びで、男女の役割が固定化しやすい面がある。

  今年、「新生アジア」という社団法人をつくった。活動の3本柱の一つに掲げるのが女性の力を生かすこと。人材のマッチングや女性のための啓発セミナーなどを行っている。女性は自信を持てないでいることが多い。そんな人に自身の目的意識や適性などをよく考えてもらいたい。 


■「戦う」ために投資を ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン社長のロベルタ・パラツェッティさん

 
 日本の女性たちにはもっと欲を持ってほしい。仕事の提案にしても自身の人事にしても、男性より控えめな態度が目立つ。管理職でも「役職があるだけ恵まれている」と思っている節がある。120%の自信がないと手を挙げない人が多い。男性は30%あれば前に出るのにだ。

  会社側は積極的に女性社員とコミュニケーションを取るべきだ。以前の職場で、男性上司が女性の部下に国外のポストを提示するのをやめようとしたことがある。小さな子どもを連れての赴任は無理だと思ったからだ。しかし、私が上司に話をするよう促すと、彼女は喜んで受けた。本人が辞退するのは構わないが、勝手におもんぱかって女性の機会を奪ってはいけない。

  子どもが小さい時など仕事との両立に苦労する。5カ月の娘を抱えて欧州から米国に出張しなければいけなかった時は、ベビーシッターを連れて出かけた。経済的負担は大きかったが、自分への投資だと思った。女性の進出は男性のポストを奪うため、女性が力を増すには「戦う」必要がある。未来への投資を惜しんではいけない。

  女性の社会進出は世界的な課題だ。例えばドイツでは1990年代に女性の社会進出が大きな課題となり、その後15年間で状況が変わった。十分なスピードではないかもしれないが、日本でもより多くの女性が出産後に仕事を続け、管理職も増えている。

  変化を起こすには、一定割合の役職などを女性に割り当てるクオータ制が有効な場合もある。実はかつてはクオータ制に大反対だった。しかし、母国イタリアで過去40年にわたって女性トップの割合がまるで増えていないことが分かった。打開には一時的なクオータ制導入が必要と考え、ロビー活動に参加した。

  ただ、義務的なクオータ制より多くの日本企業が行っている数値目標の導入が効果的だと思う。設定目標に対して実施計画をつくり、実行に移すというプロセスは企業にとって得意とするところだ。

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■一歩前へと踏み出そう ~取材を終えて~

 
 当初、外国出身のビジネスパーソンに日本企業の女性活躍推進策について辛口の意見をもらおうと考えていた。両氏とも子育て環境の整備など幅広い指摘をしてくれたが、印象的だったのが女性自身への叱咤(しった)激励で、記事の中心に据えることにした。

  2人とも歯を食いしばってきた。馬氏は苦学して来日。弁護士、会社経営、子育ての3足のわらじを履き、夫との死別も体験した。長女の出産後、3カ月で仕事に復帰したパラツェッティ氏は、10年にわたる国境をまたいだ単身赴任生活を送った。「戦い、戦いだ」という言葉が印象に残った。

  女性が男性と対等な力を持つ社会を実現するには、多くの女性リーダーを輩出するしかない。トップに立つには誰でも人一倍の努力が要る。“等身大”のロールモデルも大切だが、日本はもっと多くのスーパーウーマンを必要としていると実感した。一歩前へと踏み出そう。

 (木寺もも子)

 [日本経済新聞朝刊2017年7月24日付]